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Selfishly

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可愛いペット act1



《注!!》 項目番号はアップした時のページ数の都合で
       増えて変わっている時があります。
       項目番号が飛んでいても、話の数には
       変わりはありませんので。



~可愛いペット~ p1「味見」

見渡す限り草原がつづく、のどかな風景。
リゼンブールは、都会とはかけ離れた地域だった。
電気も引いている家が珍しく、電話も近隣のある家に頼む家もしばしば。
自慢といえば、飼っている牛や羊が何頭いるかとか、
子沢山な家が、子供自慢、孫自慢を繰り返すような、
そんな、恐ろしく平和で、悪く言えば退屈な村だった。
そんな環境でも、子供達には関係ないらしく、
日がな1日、外で遊びこけては、母親の夕餉の声に呼び戻されて
満足な1日を過ごして育っていく。
大抵の者は、そのまま成長して親の後を継ぐか、兄や姉の手伝いをして
一生を送る。 稀に、平和で退屈な村から飛び出して、刺激を求めて
都会に出て行く者もいるが、時が経てば、都会の水に馴染めずに戻ってくる。
それを、心温かく迎える村人が、実はこの村の、1番の誇りかも知れない。


「ロイー! ロイ~、戻るぞー」

大好きな者の声が届いてくる。
ロイは、ピンと立ち上がっている耳を、更にそばたたせて声を拾う。
彼がどこにいるかなど、別に声が届かなくとも、
優れた嗅覚が、常に居場所を突き止めてくれている。
驚かそうと、草むらに伏せて隠れていたが、
近づく毎に強くなる匂いは、ロイの理性をあっさりと食い破って、
彼は、「ワン!」と一声大きく返事をすると、
一目散に、大好きな者の傍に走りよる。
ロイの健脚で、両者の間はあっと言う間に埋まり、
抱きかかえようと腕を広げている人間に、ロイは身体の要求の思うがままに
飛びつく。

「あ~あ、また兄さん?」

隣では、良く似て、決して同じものではない人間が、不貞腐れたように
二人のじゃれあう光景を見ながら立っている。

彼の事も、ロイは決して嫌いではない。
自分を拾って救ってくれた事を考えると、恩も感じているし、
穏やかな気性も、子供達の中では好きな部類に入る。

「ロイ、くすぐったいってー、止めろよー」

顔と言わず、首と言わず、剥き出しの箇所を熱心に嘗め回す犬に、
エドワードは、堪らずにストップをかける。
気性は、弟は違って強いが、決して理不尽な強さではない。
ロイの目から見ても、日の光を集めたような金糸と、
不思議な世界を覗き込んだ気にさせる金瞳。
肌理細やかな絹のような手触りの肌。
バランスの取れた、しなやかな肢体。
そして、何と言っても、ロイを惹き付け止まない、
彼の生気が立ち上っているような匂い。
ロイは嘗めながら、陶然とその香を吸い込んでいく。

「ほらっ、よしよし」

少し大人しくなったロイに、エドワードは子供がするように
頭を撫でてやる。
そして、掛け声と共に起き上がると、残念がっているロイの気持ちも知らずに、

「よぉーし、家まで競争だー」と元気良く走り始める。

それはそれで、ロイにとっては嬉しい事だ。
高揚するエドワードの身体からは、更に香気が渦巻くように立ち上るし、
そんな身体を嘗めると、どんなに美味しい餌をもらう時以上に、
ロイの食欲を満たしてくれるのだ。

予想どうり、ロイが1番に家に辿り着くと、
次に息を切らしてエドワードが到着する。
待ち焦がれた人物の登場に、ロイは嬉しそうに抱きつくと、
勢い余って尻餅をつくエドワードの上から下までを嘗め回す。

「こらっ、それ止めろって。
 俺が、お前の唾でべとべとになるだろー」

そう言いながらも、笑いながらロイの相手をしているエドワードは
既に、風呂にでも入らないと、夕食もさせてもらえないほど
泥まみれな状態だ。

そんな二人と、呆れたように見ているのは、
最後に到着したアルフォンスだった。

「ロイは、本当に嘗めるの好きだよねー。
 しかも、兄さん限定なんだから」

「拗ねるな、弟よ。
 家で1番偉いのは誰かがわかってるって事さ」

カッカッカッと、胸を張って自慢げに言うエドワードの後について、
家に入っていく。

『常に味見をしていないと、食べ頃になったのに、気づくのが遅れるからな』

そう一人ごちながら、ロイは長い舌で自分の口の周りを嘗める。
美味しかった味の余韻を楽しむように。


~可愛いペット~ p2「邂逅」


ここリゼンブールの村では、夜の闇は深く濃い。
電灯や照明がないせいか、日が落ちると自然の状態になり、
闇を照らすのは、中空に自らを誇るように輝く月光と、
降り落ちてきそうな程の星明りだけが、頼りの灯かりとなる。

気候が暖かくなるにつれ、段々と日が昇るのが早くなり、
落ちるのがゆっくりとなっていく。
が、今はまだ、闇の方がやや優勢な時刻で、
水平線の果てが、僅かに白んで来ては、今日の始まりを告げる前触れを
放とうか、もう少し待つべきかと思案している時刻だ。

ゆらり。と暗い室内を闇に近い影が、動く。

しばらく蹲っていたかに見えた影は、次の瞬間、
音も気配もさせずに、すくりと立ち上がる。
闇と同化しているように、その影を作り出しているモノの姿は
はっきりとはわからないが、長身のバランスのとれた、しなやかな肢体を持っているようだ。
闇と同化したように見えたのは、そのモノが持つ色彩が
同系色の黒だったからかもしれない。

その時、雲に遮られていた月光が、今日の夜最後の輝きを
窓から差し込ませてきた。

月光が、僅かな時間、そのモノを照らし出すと、
そのモノが、どうやら人間の青年と言ってよい
一人の人物が見て取れた。

滅多に見ないような、漆黒の黒い髪と、磨き上げられた黒檀を思わせる
双眸を持った青年は、歳の頃で言うと22~24歳位だろうか。

じっと立ち尽くす横のベットでは、すやすやと健康的に眠る子供が一人。
青年とは対照的な色彩を持つ子供は、闇の中でも仄かに白く浮かぶ肌と、
これから昇る日の光を編んで作られたような、見事な金髪を持っている。
眠っているせいで見ることは叶わないが、子供が目を開いてくれれば、
黄金の輝石を嵌め込んだような瞳も見れただろう。

青年は、しばらくの間、飽きずに子供の眠る姿を眺めていたが、
おもむろに、子供の足元のシーツの端を掴むと、ゆっくりと捲り上げる。
腰くらいまでたくし上げると、子供の下半身に履いているパジャマが見える。
そして、しばらくある一点をじっと見つめていたかと思うと、
音をさせないため息を付いて、シーツを元に戻す。
肩を竦めるような仕草をしたかと思うと、次の瞬間、青年は最初の影同様の大きさに戻り、
そのまま何事もなかったように、ベットの足の傍に蹲り、
深いため息を付きながら、黒い瞳を閉じて思案する。

『まだ、大人には成れてないのだな』

頭の中で、そんな呟きを付く。
ガックリと気落ちもするし、子供の成長がゆっくりなのを
じれったくも思う。

出会った時には、自分の方が赤ん坊だったのに・・・と、
ロイは、出会った頃を回想する。



その日は、朝からのどしゃぶりの雨が続き、
生まれたばかりで捨てられたロイには、生死に関わる状況に陥っていた。
ミーミーと力なく声を上げるが、生み捨てた親が
戻ってくる事もない。
生まれたばかりであっても、本能的にそれを悟っていたロイは、
間が悪い日に生まれた、自分の運の無さを思うが、
生み捨てた親の事を恨むような感情は、持ち得てない。

何故なら、ロイの種族の者達は、皆そうだったからだ。
仲間にも、血族にも、物にも執着がなく。
過去を振り返りもしなければ、未来を夢見る事も無い。
彼らにあるのは、今、現在だけと、
そして、唯一であり、己の全てである運命の伴侶の事だけだ。

DNAに組み込まれたとしか思えない、伴侶を決め、見つける方法は、
ロイ達の種族独特の方法で、異種間も多数出れば、同性も出る。
子孫繁栄とは、全くかけ離れた理で動く為、
年々、同族は減る一方なのだが、それさえも、誰も顧みる事がないから
更に、血族は激減し、四方に散らばって行く。
稀に同族同士で惹き合うモノ達も、執着し関心が動くのは、
己の伴侶だけなので、折角恵まれた子供にも、
とんと頓着せず、更に子孫を減らしていく。

そんな中で、希少な種族の子供のロイも、親に顧みられる事無く、
幼い命の灯を、消すことになるはずだった。


「兄さん!兄さん!
 やっぱり、何かいるよぉー!」

ガサガサと茂みを鳴らせて、何かが近づいてくる。
降り注ぐ雨で、ぐっしょりと濡れそぼっている小さな生き物を、
近づいてきた者は、躊躇わずに抱き上げる。

「兄さん! 子犬だよ!
 それも、生まれたばかりのー」

雨から庇うように抱き上げられ、この時初めて、ロイは温かいという
感覚を知った。
が、それも今更どうでも良いことだった。
どうせ、自分の今の状態では、助けられたところで手遅れだ。
どんどんと失われていく体温は、少しばかり温められたからと
戻って生きそうも無い。
種族の違いか、ロイ達は生まれたときから、ある程度の知能と
出来上がった思考を持っている。
だからこそ、今の自分の状態を、冷静に見つめる事も考える事も出来るのだ。

ゆっくりと瞼を閉じようとした。
短い生の終わりを告げるかのように・・・。

クン
その時、ロイの鋭い嗅覚が、反応する。
途端に、閉じようとしていた瞼が跳ね上がる。

『この匂いは・・・』

ロイは、上げる事が出来ない頭を必死で上げようとする。
が、微かに身動きした程度で、弱っているロイには、
瞼を見開き、近づいてくる、この匂いを持つものを
視界に入れようとするのが精一杯だった。

ガサガサと大きな音が響く。
更に匂いは濃厚になる。
この大雨の中、消されるか、薄められるかするはずが、
そんな事くらいでは、かき消されない程の、濃い香りが。
その者の存在が、いかに強いかを示すように、
ロイの元まで届いてくる。

ガサリ
手前の大きな枝が、分けられる。
そして、ロイが生まれて初めて見る太陽が、光臨してきた。


その後、子供の家族の手厚い看護のおかげと、
ロイの持ち前の、生命力の強さもあり、数日後には、
自分で動ける程にまで回復を見せた。
そしてロイは、住む家と同時に、自らの伴侶も手に入れたのだ。
・・・いや、手に入れる為に、見つけたのだ、今はまだ。

それから2年。
ロイは1年で青年の域に入ったが、いかんせん、人の子の成長は遅すぎる。
特にエドワードは、どうも、他の子供達と比べても
成長が遅いようなのだ。
弟のアルフォンスが、そろそろ大人への成長を見せ始めたと言うのに、
この子は一向に、その兆しも見せない。

ふぁっ~と大きな口を開けて、あくびをしながら、
ロイは待つ辛さを思う。
まぁ、自分達種族は、ある一定の年齢になると、
成長が極端にゆっくりとなるし、長命だから、
待つ時間はいくらでもある。
だがしかし・・・と嘆息する。
身の内で飼っている本能を抑えるのは、並大抵ではない。
特にロイは、今が盛りの歳でもある。
『どうしたものかな・・・』

思案にくれるうちに、トロトロとまどろみ始める。

『もうあまり、忍耐が持ちそうもないんだがな』

そんな事を思いながら、深いため息を1つ吐き出して、
眠りの中に無理やり、自分の欲望を押し込める。




~可愛いペット~ p3「気に喰わない奴」


「エド! 犬は、家には入れない約束でしょ」

扉の前で、仁王立ちしている少女が、
エドワードと一緒に、入ろうとしたロイを見咎めて怒鳴る。

「ウィンリー、堅いこと言うなよ。
 別に、俺んちじゃ、ロイも普通に家に居るぜ」

エドワードが、唇を尖らせて不平を言う。

「ダ~メ! 家は精密機械を扱ってるんだから、
 動物の毛なんか、ご法度だって、何度も言ってるでしょ!」

エドワードの不平にも、頑として譲らない姿勢を見せる少女に、
エドワードも、嘆息をしながら、ロイに話しかける。

「ごめんな。 今日は、母さんが居ないから、
 ウィンリー家で飯食う間、ちょっとここで待っててくれよな」

詫びるように、優しく頭を撫ぜるエドワードに、
「クゥーン」と了承の声を上げて、撫でてくれた手を嘗め返す。

そんなエドワードとロイの様子を、フンとばかり鼻息で謗って
少女は、エドワード達と家の中に姿を消していく。

ロイは、閉じられた扉を前に、
睨みつけるような一瞥を送ると、家の横に回りこんで
エドワード達が、食事を終えるまで、その窓際に寝そべって待つ姿勢をみせる。

開けられた窓からは、中での声が漏れてくる。
食事の匂いと一緒に、そして、それ以上の良い匂いが漂ってくるのを
確認するように、ロイは鼻を鳴らす。

『だいたい、この家に来ること自体が嫌なんだ。
 あの小娘、来る毎に私を牽制しようとするのが、
 全く持って、腹ただしい!』

忌々しそうに窓を睨むが、中からの応えは、
楽しそうにはしゃいでいる子供たちの声ばかりだ。

ロイは、苛ただしそうに耳を降り、エドワードが出てくるまでの時間を
辛抱強く待ち続けた。



「エドー! ねぇ、今日こそは、皆と遊びに出かけるでしょ?」

元気良く飛び込んできた少女は、エドワードの腕を引っ張りながら
急かす様に、外へ連れ出そうとする。
そんなウィンリーの様子に、エドワードとアルは、互いに顔を見合し、
躊躇う様子を見せる。

「でも、ロイの様子もまだ・・・」

アルフォンスが、遠慮がちに言葉を告げようとすると、

「もう! 最近、いつもその子犬の面倒ばかりじゃないの!
 体調が悪いって言っても、もう、自分で起き上がれるようになったんなら、
 家に置いとけば大丈夫じゃない」

癇癪を起したように声を大にして言い返すウィンリーに、
エドワードとアルフォンスは、顔を見合わせて苦笑する。

確かに、ロイを拾ってきた数日、ウィンリーのお供をしてなかった。
村の中心には、エドワード達と同い年位の子供達も居るとはいえ、
少々、離れてもいるので、この近隣では3人しか子供は居ない。

しばらく思案顔を見せていたエドワードが、頷いてアルフォンスに告げる。

「わかった。 じゃあ、俺がロイの面倒を見てるから、
 アル、ウィンリーと一緒に行ってこい」

「で、でも、兄さん・・・」

躊躇うアルフォンスが、言葉を言い終える前に、
ウィンリーが、癇癪を起す。

「もう! ロイ、ロイって。
 エドは、私たちとロイの、どっちが大切なのよ!」

籠の中で、寝ていたロイが思わず声に驚いて、頭を上げる。

と、その瞬間、ロイとその少女の視線が交差する。
その少女の瞳には、嫌悪の感情がまざまざと浮かんでおり、
ロイに突き刺さるような、冷たい視線を向けていた。

『なるほどな・・・』

どうやらこの少女は、エドワードに好意を持っているらしい。
自分に構う時間をロイの割かれるのが、嫌でしょうがないのだろう。

ロイは、小さな弱々しい鳴声を一声上げる。

「クゥー・・・」

愛くるしい小動物が、弱弱しく鳴声を上げるのを
無視できるようなエドワードではない。

「ウィンリー、あんまり大っきい声上げんなよ。
 それでなくても、お前、声がでかいんだからさ。

 ロイは、まだ死に掛けてたところを、やっと起き上がれるようになったばかりなんだ、
 誰かが診といてやらないと、可哀相だろ」

エドワードはそう言いながら、鳴声を上げたロイを
優しく撫でてやる。
その手を、小さな舌で嘗め返すと、エドワードは嬉しそうに
ロイを抱きかかえてくれる。

「と言う事で、アル、お前はウィンリーと行ってくれよな」

ロイをあやすのに気が取られているエドワードは、
ウィンリーが紅潮した顔の眦に、悔しそうな涙を浮かべていた事には
全く気づいていなかった。

その後、無言で家を出た少女は、お供のアルフォンスを連れて
村へと足音高く、遠ざかって行った。

ロイは、ザマアミロと内心で舌を出し、
勝者した自分にウキウキとした気持ちを得たものだ。

そして、それ以降、事有るごとに、ロイを邪魔者扱いをするようになった少女は、
今では、ロイの天敵にまで育っている。
ロイもロイで、エドワードの傍に近づこうとするウィンリーを
牽制して傍に寄せ付けないように、頑張ってきた。

両者の内心の葛藤を知らぬは、関心の中心の人物である
エドワードのみであった。

しかし、と思う。
人間は、女性の方が早く成熟する。
すでに、ウィンリーと言う少女からは、女の匂いが発せられている。
少女はいつまでも子供ではない。
エドワードが、いくら成長の遅れている子供だと言え、
油断は大敵だ。
救いは、この少女に好意を抱いているアルフォンスの存在だが、
かなり奥手な性格の上、兄を崇拝している彼では、
防波堤にはならないかも知れない。

そろそろ、この少女にも、エドワードが自分の唯一無二の伴侶で、
お前ごときには、手に入らぬ存在だと言う事を、
知らしめる必要性があるかもしれない。

そんな剣呑な考えを浮かべていると、
エドワードが部屋から出て行くのが気配で伝わってきた。

ロイは、さっと機敏に起き上がり、エドワードが出てくる入り口で
待ち構える。

「ロイー、ごめん、お待たせな」

扉から、弾かれたように出てきた彼は、
一目散に、きちんと座って待っているロイに駆け寄り、
ギュッと抱きしめてくれる。

ロイは自分を包む、エドワードの香りに陶然としながら、
甘えるように頭を擦り付ける。

「よしよし、寂しかったんだよな」

そう言いながら、更に強く抱きしめてくれるエドワードの後ろには、
唇を噛んで、自分達を睨んでいる人物が見える。
否、睨まれているのは、自分一人だ。

「じゃぁな、ご馳走さん! ばっちゃんにも、宜しくな」

まだ残る事にしたアルフォンスを置いて、エドワードはロイに呼びかけて
さっさと、家へと足を向ける。
ロイは、ゆっくりと尾を振り、後ろで鋭い視線を投げかける少女に、
見せ付けるように、エドワードに擦り寄って歩いていく。

『今も、これから先も、絶対に譲りはしない」

ロイの心の決意が届いたのか、少女は大きな音を立てて
扉を閉めた。

誰しも、気に喰わないヤツがいるものだ。
ロイとウィンリーの戦いは、今後熾烈を極める事になって行くだろう。
それでも、必ず勝つのは自分だと、ロイは高らかに哂い声を上げながら、
少女の家を後にする。


~可愛いペット~ p4「バスタイム」


「ほぉ~ら、ロイ。 目を閉じとけよぉ」

そう言いながら、エドワードは、泡まみれみになっているロイに
勢いよくお湯を浴びせかけてやる。
聞き分けよく、浴びせられるお湯にも、じっとしていたロイが、
数回、我慢していると、

「よっし、綺麗になったぞ。
 ロイは、偉いな」

そう言いながら、終了の合図に、ロイの頭を撫ぜてくる。

『やれやれ』
内心で一人ごちながら、ロイはずぶ濡れの身体を
振って、水を弾く。

「うわっぷ。 こらっ、俺にまでかかるだろう。
 もうちょっと、上品に振れよなー」

エドワードに上品にと言われても、大概の人間も、ロイも勿論、
困るんだがな・・と苦笑を浮かべながらも、
謝罪のつもりに、エドワードの頬を、ペロリと長い舌で嘗め取ってやる。

「よしよし、ちゃんと反省してるなんて、偉いぞ」

そんな些細な事で、ご機嫌になってるエドワードを、
可愛いなーと思いながら、ふと視線を下げる。

『・・・ここも、可愛いままだな』

男らしく、足を広げっぱなしでロイを洗っていたエドワードの
可愛い子供の形状のままの分身に、目をやると、ロイは
思わず、肩がガックリと落ちる。

ナリ同様、こちらの発育もお子様のままらしい。
と、わざわざ確認しなくても、入浴は必ず二人で入っている。
以前は、アルフォンスも入っていたので、ロイはスペースの理由で
後からが多かった。
が、アルフォンスも最近は、兄を慮ってか、一緒には入らなくなった。
最初は、エドワードも不満げな様子を見せていたが、
ロイが一緒に入るようになってからは、アルフォンスが何故、一緒に入らなくなったかを
気にしないままに来てしまっている。
・・・1つの事に集中すると、他がおろそかになりがちな
エドワードらしい。

「ふんふんふんっ~」

ご機嫌宜しく、エドワードが自分の身体を洗う為に、
スポンジに石鹸を付け始めている。
エドワードが身動きする度に、プラプラと揺れるモノを見ていて、
ロイの悪戯心が湧いてくる。

ついっと顔を近づけると、ロイの舌で十分巻き込めるそれを
ペロリと嘗め上げてやる。

「ウッヒャー!!」

途端に、エドワードの奇声が浴室に響く。
ロイは、その騒がしさに、思わず耳をヘタリと倒す位だ。

「なっ、なっ、な~にするんだよ、ロイ!

 そんな汚い所を、嘗めるんじゃない!」

真っ赤な顔をして、プリプリと文句を言うエドワードに、
ロイは、叱られて項垂れるフリをしながら、
こっそりと呟く。

『別に汚くなんかないのにな。
 エドワードに、汚いところなんか、1点もないさ』

そう小さく啼きながら、今味わった名残りを
ゆっくりと咀嚼する。

早く、ゆっくり味わえるようになりたいものだと
心の中で呟きながら。


その後、浴槽で寝そべって浸かっているエドワードを
ロイは、縁に顔を置いて眺める。

浴槽に手足を伸ばして寛いでいるエドワードを、
まじまじと眺めながら、思いに耽る。

『エドワードは、本当に綺麗だ』

太陽の光を編みこんで出来上がったような金糸も、
水に濡れて、更に艶がましている。
アラバスターを思わせる肌も、上気してほんのり色づき、
水滴を弾いている金色の睫や、つんと上を向いている形の良い鼻梁も、
そして、思わず味わいたくなるような小ぶりで厚みのある唇も、
小さいながらバランスの取れた肢体も。
どれも、ロイにとっては最上で唯一の美しさだ。

『自分の伴侶が、これだけ美しいなんて、
 私は果報者だ』

自慢で胸が一杯になっているロイは、思わず人型に戻って、
力いっぱい抱きしめたくなるのを我慢するのに、
かなりの忍耐力が必要だった。

ロイ達の種族では、伴侶の美醜は余り気にされない。
多種族にも惹かれる事も多いので、伴侶が虫や爬虫類の場合もあるし、
変わり者の中には、無機物や植物にまで及ぶものも居る。
ロイ達自身が、変わり者ばかりのようなのに、
やはり、どこの世界にも、更なる上の変わり者が存在するようだ。

でも、ロイの伴侶のエドワードなら、意思の疎通も出来るようになるだろうし、
肉体的にも交あう事も出来るわけだ。
それだけでも、ロイにとってはラッキーだった。
精神的な繋がりは、もちろん大切だが、
生身を持つものとしては、それを互いに感じあえる方が
更に良いに決まっている。

ロイは、うっとりと見惚れていた為に、エドワードが
ロイをじっと見ていた事に、気づくのが遅れた。

「お前、本当に風呂好きだよなー。
 犬で、こんだけ風呂好きなのも、めずらしいぜ、きっと」

そんな、全然的外れな会話をふってくるエドワードに、
ロイは、ずっこけてしまう。

そして、少しだけ恨めしそうにエドワードを見て、
クゥ~ンと抗議の声を上げる。

『惚れている相手と浴室にはいれるなんて。
 そんなチャンスを、逃すような者がいるわけないだろうが』

「暑いか? そろそろ、上がろうか?」

ロイの思いは虚しく空回りして、今日も楽しいバスタイムは
終わりを告げていく。


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